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2.大赤字
 

さて。
龍彰が市長に就任してから1ヶ月が過ぎたある日。
ドアもノックせずに市長室に駆け込んできたバーコード頭の男性がいた。

「豊泉市長!」
龍彰は机の上で春うららかな陽射しの中転寝をしていたわけだが、その声で一気に起こされた。
典政は書庫へ行っており、現在市長室にはいない。
「ど、どうした?」
思わず飛び起きる龍彰。
「いきなりですが市長、今現在、瀧山市は赤字に陥ってます」
その言葉を聞いて、少し龍彰の顔は真顔になった。
「赤字・・・とは?」
寝起きだからかどうか知らないが、とぼけた質問をかます龍彰。
「今、瀧山市では §220の赤字です。このままだといつか財政破綻します。何とかしてください」
このバーコード頭の男性は財務課長(らしい)。
市長が就任して1ヶ月が経ち、財務課が予算計算をしてみたら赤字だった・・・ということである。
とにかく龍彰は課長を下がらせ、一人考えてみた。
だが、予算を削るための基となる資料がない。資料はすべて典政が持っているのである。
要するに、龍彰は典政が書庫から帰ってくるまで何もできないのである。
「仕方ない。もう一眠りするか」
そういって、頭を机につけようとしたときに、市長室のドアが不意に開いた。
もちろん、中に入ってきたのは典政である。
「・・・市長。公務中の居眠りは厳禁ですよ」
手にはノートパソコンを持って典政が書庫から帰ってきた。
「わかってる。ところで、その資料の山は・・・?」
龍彰が眠い目をこすり、典政に聞く。
「ああ、これですか。ほら、今日は市長が就任してから1ヶ月が経つでしょう?」
いきなりそういわれ、眠い頭にはいまいち理解できない。
「1ヶ月が経ったということは予算が発表されるということです。ですから、それについての資料を・・・」
そういって典政はノートパソコンをいったん応接テーブルの上におき、ソファに深く腰掛けた。
それを見た龍彰もソファにすわり、典政と向かい合った。
「で、さっき財務課長が来て、『予算が赤字だからどうにかしてくれ』と言ったわけなんだが・・・」
すると典政はパソコンの中にある「瀧山市予算状況」というファイルを開いた。
「えーと、今の瀧山市は§220の赤字ですね。まずはどこを削るか、ということですが・・・」
典政はパソコンを見ながらつぶやく。
現在、瀧山市が予算を使っているのは「道路」「発電所」「埋立地」。
道路の予算を削ると、道路に穴が開くため道路の予算は削らないほうがよい。
発電所と埋立地の予算は、電力やゴミの使用状況にしたがって変更するのが一番ベター。
ただし、発電所の予算をあまり変更しすぎると、発電所の寿命が短くなるのでその点は注意が必要である。
「・・・ということなんですが」
「じゃ三条君、今の電力使用状況とゴミ処理状況を見せてくれ」
そういわれると、典政はまた別のファイルを開き、龍彰に見せた。
「何だこれは・・・!電力の使用量を、発電量が大きく上回っているじゃないか。ゴミも一緒だ。なんともったいない」
グラフを見るなりいきなり熱く語りだす龍彰。
「・・・で、どこの予算を削るんですか?」
典政が少しあきれ気味に聞く。
「電力の発電量を、使用量をわずかに上回るように予算を設定しろ。あと、埋立地も一緒だ。これは公益局に任せておけばよい」
そういうと、龍彰は仮眠室へ歩き始めた。
「では、このことを財務課に言っておけばよろしいですね?」
典政がそう問いかけたが、返事は返ってこなかった。
仕方なく典政は、ノートパソコンを持って財務課へと行った。

予算が決まり、黒字になってからしばらく経ったある日。
なにやら(龍彰にしてみたら)見知らぬ男が市長室に入ってきた。
典政が言うには市民課長らしいのだが、龍彰にしてみたらそうとは見えない。いかにも土建屋をやっているような親父なのだ。
「・・・で、市民課長が何の用で?」
と、龍彰が市民課長に半分恐れながら質問する。
「ようやく瀧山市の人口が500人を超えました。で、それを記念して市長官邸を建設しようと思うのですが・・・」
そのことを聞いて、典政はやたらと喜んでるが、龍彰は素直に喜べない。
「どうしたんですか?市長」
典政が横から聞く。
「いや、だってさ、瀧山『市』なんだぞ。市なのにようやく500人突破って・・・なんか惨めじゃないか?」
ま、まぁ確かに、と典政が横でうなずく。
龍彰が恐れている市民課長は、別に何の表情も見せず、普通の顔(?)をしている。
「それで、建設場所はどこがよいでしょうか?」
市民課長が龍彰に質問する。
「そうだなぁ・・・貯水塔の前(西)がいいんじゃないか。住宅地区も近いし、地価も上がるだろう」
そういうと市民課長はきびすを返し、市長室を出て行った。

「・・・市長、あまり市民課長の前で先ほどのようなことは言わないほうがいいですよ。後で何されるかわかりませんから・・・」
と、市民課長が出て行った後に、典政がひそかに龍彰に忠告をする。
しかし、そのことに対して、龍彰は別に変わった表情も見せず、ただうなずいているだけだった。
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