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1.瀧山市誕生
 

「しかし広い土地だな・・・」
男が一面に広がる荒野に突っ立ってつぶやく。
この男こそ、瀧山市の新市長・豊泉 龍彰(とよいずみ たつあき)である。

市の外れたところにある古ぼけた市庁舎。
まだ道路も整備されていないのでひたすら荒野を歩く龍彰。
30分ほど歩きようやく市庁舎に到着。しかし中に入っても働いている人はいない。
それにしてはやたら綺麗だ。
不思議に思いつつも最上階にある市長室の前に行くと、中からものすごい音が聞こえてきた。
「ガラガラガラドッシャーン!」
その音に弾かれたように急いで部屋の中に入る龍彰。目の前に広がっていた光景は・・・。
「イテテテテテテ・・・」
細身の男が荷物の下敷きになって倒れている。どうやらさっきの音は、荷物が崩れた音らしい。
「そこでいったい何をしている?」
龍彰が思わず問いかけたところ、荷物の山の下から声が聞こえてきた。
「あ、その声は豊泉市長ですね」
龍彰の質問には答えず、荷物の山の下から這い出てきた細身で髪の長い男。
「君は・・・?」
続いて問いかける龍彰。
「はじめまして。豊泉市長の秘書をさせていただきます『三条 典政』(さんじょう のりまさ)と申します」
自己紹介を聞いて、龍彰の疑念の顔が晴れた。
「ああ、君が秘書の三条君か。これからよろしく頼むよ」
その後龍彰も一通りの挨拶を済ませ、再び典政に問いかけた。
「ところで、何をしていたんだ?部屋の外まですごい音が聞こえたが・・・」
龍彰の問いかけに、典政は明るく答えた。
「あぁ、荷物の整理をしていたんです。色々な書類とかがあったので」
その答えになるほど、と龍彰はうなずいた。

ある程度荷物を片付け、ソファに腰掛ける龍彰と典政。
龍彰はここから本題に取り掛かった。
「さて、私はこうして今市長の座にいるのだが・・・。このままでは人は住まないままだ。まずはどうしたらよいだろうか?」
というのも、龍彰は一度も市長というのも経験したことがない(当たり前か)。
龍彰はこれでも選挙に当選して、この市長の座についているのだが、ほとんどは父親の権力のおかげであったりする。
何を隠そう、この龍彰の父親・豊泉 龍良(とよいずみ たつよし)は大富県の県知事なのだ。
龍良は歴代県知事の中でも、一番県民の支持率が高く、その息子が瀧山市長選に出るとなって、県民の票はほとんど龍彰に入った。
しかしいくら得票数は多くても、父親の龍良に市長選に出馬するよう背中を押されるまで、至って普通の庶民だったのだ。
普通の庶民がいきなり市長になったとあって、市政のことはさっぱりわからない。
それに対し秘書の典政は若くして今までに数々の市政を成功させてきている。
大富県の県庁所在地・豊阪市も典政が秘書を務め、今では政令都市にまで成長している。
そんな典政に辞令が届いたのは先月の話。
そう、典政は先月まで豊阪市の秘書をやっていたのだ。
そのときに県(県知事)から辞令が届き、県が新しく開発する瀧山市の秘書になったのだ。

さて。
そんな龍彰の質問にうろたえて答える典政ではない。
「大丈夫です。私がついておりますので、私の言うとおりにしていただければ最初のうちは大丈夫です」
典政の発言に何か引っかかった龍彰だが、この際言うとゴチャゴチャになるので控えておいた。
「ではまず発電所を建てましょう。発電所がなければ電力が来ないので。えーと、どのあたりがよろしいでしょうか・・・」
そういうと典政はどこからか瀧山市の地図を広げ、考え始めた。それを横から見ていた龍彰は、地図上のとあるところを指差した。
「ここ」
あまりにも突発的だったことで、典政は驚きを隠せない。
「ん?どうかしたか?」
「い、いや、何でもありません。では、この丘の西のほうに発電所を建設いたします。何の発電所がよろしいですか?」
そういうとまたどこからともなく発電所のデータが書かれた書類を出した。
このときはさすがにお金や公害のことが絡んでくるため、龍彰も真剣に考えた。
「パッと見ると石油発電所のほうがいいように思えるが、コストを考えると石炭が今は一番良いのかもしれないな。公害はひどいが・・・」
龍彰の一声で発電所の位置が決まり、続いて埋立地の話へと移った。
「そんなの、発電所の横のあいている敷地に作れば良いじゃないか」
これも3秒で話が決まり、とんとん拍子に話が移っていく。
「では続いて、住民の勤務地である『工業地区』の敷設です。どこに敷設しましょうか?」
そういうと再びあの地図を出してきた。今度はやたら真剣に悩む龍彰。
「んー・・・まぁ、発電所を建設した丘のふもとで良いだろう。広さは任せる」
「もうここまできたら一気に決めてしまいましょう。住宅地区は?」
「工業地区から2キロ(想像)くらい離せ。工場の煙が届かないところにな」
「商業地区は?」
「住宅地区の南だ。これは住宅地区の隣に敷設しても良いだろう」
「わかりました。最後に、水道はどういたしましょう?」
典政が書類を片付けながら問いかける。
「そうだなぁ・・・。工業地区のほうに設置すると水が汚染されるから、住宅地区のほうに設置だ」
龍彰は立ち上がり、窓のほうへ歩く。
「あ、あと三条君」
そう呼ばれ、思わず高い声(裏声)で返事をしてしまう典政。そのとき、今までに笑ったことがなかった龍彰がふっと笑った。
「三条君、君は元気だね。私にも是非その元気をこれからも分けてくれ」
典政は龍彰が何を言いたいのかいまいち理解できず、一応うなずいておいた。
「あ、そうそう。道路と街路の図は明日、持ってくるよ。しかし、今決めたことは、私たちで決めてよかったのか?」
龍彰が典政のほうへ振り返り、質問をする。
「ええ。各局からは『市長と秘書で決めてくれ』と言われているので、最初のことは私たちが決めてもいいようです」
そういわれ、龍彰は少しほっとした表情を見せた。

「さー、がんばるぞー!」
そう意気込んで、龍彰は初めて市長の机についた。
これからどのような市になるのだろうか。すべては龍彰と典政の手にかかっている。
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