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10.出港
 

あれから1週間後。
ようやく広陵港が完成した。(といっても桟橋と簡単な設備しかないが)
その間に東呉西港との交渉も成立させ、あとは船を出港させるのみとなった。
船の出港は、村民の働き場所として使用される東呉市からとなった。

――出港式前日
「やっと船が運航できるわけですね!村長」
実はこの周瑜はひそかに海と船が好きで、
この企画の際もウキウキしながら仕事をしていた。
「・・・何も起こらなければ良いが」
何か嫌な予感がしている孫策。しきりに部屋を行ったり来たりしている。
「何も起こりませんよ。出港式は明日です。明日の天気は快晴、一番良いコンディションです!」
「長江の交通状況は?」
「いつもと変わらず、商船が東呉と寿春、成都を行き来しています」
「事故の危険性は?」
「今のところ危惧されてません。・・・なんでそう心配なんですか?伯符」
周瑜が少し困ったようにたずねる。
「・・・いや、『勘』というものだ。何か嫌な予感がする」
「そんな縁起の悪いことを。片道30分、往復1時間でいけますよ、東呉・広陵間は」
「時間はどうでも良いのだ。商船と何か・・・」
「何もありませんって!そんなことを考えていると、本当にそうなりますよ」
「・・・だな。今はあまり考えないことにしよう」

さて出港式当日。
しわひとつ無いスーツに身にまとった孫策。こういう格好をしていれば格好いい孫策である。
周瑜といえば、真っ赤なスーツで派手に決めている。
「・・・派手だな、公瑾」
「そうですか?いつもはこれくらいですよ」
「村長!周瑜さん!早く乗ってください」
出港式会場である東呉までは車で。運転手は太史慈である。
「いやぁ、わくわくしますね!」
太史慈もどうやら興奮しているようである。
「・・・2人揃って興奮してるな」
「伯符は興奮しないんですか?」
素で太史慈が突っ込む。
「いや、俺だって興奮してるさ。・・・だが」
「さー子義、早く行きましょう。出港式は10時からです」
「おっと、もうこんな時間ですか。車を出しましょう」

――午前8時30分、広陵村役場出発

ここから延々と1時間かけて国道105号線(通称:東呉国道)を走っていく。
シャトルバスはこの東呉国道を走る予定だったが、
往復2時間もかかる上に渋滞に巻き込まれやすいために、その案は却下されてしまった。

――午前9時15分、秣陵町の「道の駅」で休憩

「なぁ子義」
「なんですか村長」
「何でこんな道の駅で休憩なんかするんだ?」
「1時間も運転席に座ってるとお尻が痛くなるのですよ」
「時間は大丈夫なのか?」
「9時40分までにはつきますよ」

――午前9時35分、東呉西港埠頭到着

埠頭にはすでに東呉市長の孫権、東呉市警察署長の孫堅、
他商工会や秣陵町長などが来ている。
「そうそうたる顔ぶれだな」
「それはそうでしょう。結構大きな企画ですからね」
ウキウキしながら周瑜が答える。
「あ、兄さんたちもう来てましたか。さぁ、準備をしてください。10時から出港式ですよ」

――午前10時ちょうど、東呉西港で出港式開式

「ただいまより、東呉市と広陵村間を結ぶ『長江シャトルシップ』の出港式および運航式を行います」
なぜか司会に抜擢されてしまった周瑜が、壇上で喋る。
「それでは、まず最初に東呉市長の話です」

――30分後

「皆さんお待ちかね、船の出港です。船はあちらにあります!」
周瑜が指差したところは東呉西港の端っこ。今は整備されて客が乗降できるようになっているが、
整備される前は物置だったらしく、物置の中に入っていたものが外に出ている。
「あそこに用意されているのは、東呉市長が用意していただいた『長江』です」
そのまんまのネーミングである。誰が名前をつけたのか知らないが。
「それでは、船に乗っていただきましょう。まず、東呉市長、広陵村長、ほか秘書や役員です。
ささ、桟橋に行きましょう」
周瑜に促されて桟橋へ。
「長江」号はけして大きくないが、それでも客輸送には十分の船である。
「それでは、ただいまよりこの『長江』号が広陵へ行ってきて、またここの東呉へ戻ってきます」
そう言って、あとのことは商工会に任せ、周瑜は船に乗ってしまった。
「公瑾ー!早く早くー」
「あせらせないでください、滑って転んだらどうするんですか」
桟橋で転ぶ奴もいないと思うが。

「ボーーーーッ」
勢い良く蒸気の音が上がったかと思うと、船はゆるりと東呉西港の桟橋を出た。
「いってらっしゃーい!!」
少しずつ東呉西港で手を振る人たちの影が小さくなっていく。
「またすぐ戻ってくるのですよね」
「今から外国にでも行く気か」
「いえ、なにやら出港したら今度は寂しいような感じがして」
「なーに、何も無い限り戻ってこれるさ」
昨日まではあんなに心配していた孫策だが、今日は打って変わって何も心配していないようだ。
「さぁ!向こうにつくまでの30分間、ゆっくりと船の旅を楽しみましょう」
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